先日、引き違い戸(引き戸が二枚ある日本家屋の戸)の鍵交換へお伺いいたしました。
カギの救助隊福岡では、引き違い戸の鍵交換をする際は、鍵交換の作業をする前に、サービスで戸車の調整を行なっております。
今回の引違戸は、写真の向かって左側から出入りする作りでしたが(右側を開けたところに下駄箱があるため)、その左側の引戸の動きが悪く、開け閉めに力の要る状態でした。
ところで鍵交換する前に、戸の調整を行う理由は簡単で、二枚の引き戸が動く引き違い戸の場合、手前側と奥側の戸に付ける錠前の位置をキッチリと合わせないといけないからです。
これをきっちりと合わせずに鍵を取り替えてしまうと、綺麗に鍵がかかりません。
鍵交換をした後に引戸の位置調整を行なうと、せっかく蔦津の錠前の位置を合わせていても、戸の調整をしたことで位置がずれ、また調整をし直さねばならないからです。
そうなると二度手間ですね。
余談ですが、引き違い戸の鍵交換の際に合わせるのは、手前の引戸、奥の引戸の錠前の位置だけではありません。
チリと言って、手前の引戸と奥の引戸の隙間の量も調整せねばなりません。
私は、将来戸がズレても大丈夫なように、この戸は将来どっち側にどれくらいズレるかというのを想像して、そこから計算してチリの寸法を決めます。
時にはそもそも二つの引戸に遊びが多く、どちら方向にもガタガタ動く引違戸にあたる事があります。
その時は、
「将来のことを考えると、あと2ミリ隙間を減らしたい。しかし、ガタガタの動き方によっては2ミリ減らすと二つの戸が接触してしまう。
1ミリなら何とか接触もなく、将来戸がズレても許容範囲があるので、1ミリだけにしておこうか」
などと、一ミリの攻防をしていることがあります。
戸車の調整
話が横道に逸れてしまいましたが、そんなわけでここから戸車の調整を行います。
特に向かって左側の引き戸が重いので、そちらを重点的に行います。
先程書いた通り、左の引戸側がメインの通り道であることもありますが。
点検すると、引戸のレールの周りに擦れた後が二箇所あります。
これは、戸が下に下がりすぎていて、下の枠に接触してしまってる証拠です。
写真では見辛いので、下の写真では引きずられて擦れた跡が付いている部分に色付けしました。
こういった場合、戸車を上にあげる調整をしてやれば大丈夫です。
調整は簡単に出来るものがほとんどですが、戸を外さないと調整できないものや、そもそも調整機能がないものもあります。
中には、調整機能はあるものの、目いっぱいまで上げてもまだ接触する物もあります。
そういった場合は戸車そのものを加工したりするのですが、どの程度加工すればよい位置に調整できるかは、経験と勘です。
そんなわけで、上に上げて当たらないようにしました。
これで接触しなくなったのですが、まだ引戸を動かすと重いです。
そこで、戸をいったん外し戸車の状態をチェックします。
固着した戸車の修繕
外してみたところ、左側の引戸に二つ付いている戸車のうちの一個が固着していました。
戸車へ注油を行なうのですが、通常時はシリコン系のオイルが良いと思います。
部品の内部にシリコンの膜が張られるからです。
ただ、今回のように固着してしまっている場合は、シリコンは使えません。
シリコンは細かい隙間には入っていかないからです。
(固着していると言う事は、部品と部品の隙間に、ゴミ・埃・錆などがぎっしり詰まっていて、隙間がないと言う事です)
細かい隙間に入っていく油と言えば、浸透潤滑剤です。
文字通り、隙間から中に浸透していってくれます。
有名なところでは、KURE 5-56ですね。
浸透潤滑剤をかけてしばらく経つと、固着していた戸車が動くようになりました。
ゴミなどを出した後は、シリコンスプレー(シリコンオイルのスプレー=ホームセンターで売ってます)を入れます。
浸透潤滑剤も、金額の大小でたくさん種類がありますが、高額なものを使わなくても、仕上げにシリコンスプレーをするのであれば、5-56で良いかなと思います。
5-56でもうまく浸透せず固着が改善しないときは、さらに浸透しやすい物もあることはあるのですが、オイル自体が高額ですので、そこまでするのであれば、戸車を新品にした方が良いかもしれません。
逆に、安いからと言っても、浸透力を考えるのであれば、5-56より安いものは避けた方が良いかもしれません。
ただ単に自転車のチェーンに注油するなど、固着したものを外す目的以外であれば、安いものでも良いですが。
浸透潤滑剤のメリットデメリット
ところで、浸透潤滑剤系の油は、メリットデメリットがあるので最後にお伝えします。
と言うか、このデメリットを正しく理解して使用して下さい。
浸透潤滑剤は、隙間に浸透して油分が入って行くので、固着したものでも外せることがある(正しく100%外れるわけではない)のですが(メリット)、
浸透して入りやすいと言う事は、出ていきやすいと言う事でもあります(デメリット)
(そのため私は、先ほど、固着した戸車が浸透潤滑剤で動くようになった後、出ていきにくいシリコンスプレーをしたと言うわけです)
しかも、出ていく際に、注した部分に元々あった油分を一緒に持って出ていってしまいます。
ただし、これのもともとあった油分を一緒に持って出ていってしまうと言うのは、デメリットだけではなく、メリットでもあります。
どう言う事かと言いますと、もともとあった油分を持って行ってしまうと言う事は、古い油を持っていくと言う事です。
したがって、鍵の世界で言えば、錠ケースなどのメンテナンスをする時、油が古くなって固まりだして、動きが悪いなと言うときは、5-56を吹きかけてから拭き取ると、古い油がなくなります。
また、分解出来ないなどで、拭き取ることが出来ない場合は、5-56を注してから何回か動かす(錠ケースのメンテナンスの場合は鍵を操作して内部を動かす)と、動いたときに5-56が古い油を溶かすので、古い油が溶けた後クリーナーを入れると、綺麗に古い油分が出ていってくれます。
もちろん、出ていったままではいけないので、新たにシリコンオイル系の物(場所によってはグリス系の油)を入れてやることで、内部がリフレッシュします。
なお、このような古い油の除去の目的だけであれば、5-56でなくても、安い浸透潤滑剤でもOKです。
車やバイクを整備したり、何かしらの機械を扱う人間からすると、当たり前のことを書いてしまってますが、意外と5-56が万能だと思っている方が多いので、ここでは敢えて浸透潤滑剤のメリットデメリットを書きました。
とは言え、頻繫に油を注す人の場合は、5-56の後に特別何か別のオイルを注さなくても、5-56だけでOKです。
5-56の油分が出ていく前に、新しい5-56が入ってくるからです。
少し横道に逸れましたが、この辺りで浸透潤滑剤について説明は終わりたいと思います・
いよいよ引違戸の鍵交換
長々と書いてしまいましたが、こうして戸車の調整・修繕を終えたら、いよいよカギの交換の作業に入ります
このようにカギの救助隊福岡では、引き違い戸の鍵交換の前には、戸車の調整や修繕をサービスで行なっているのですが、費用を頂いている鍵交換で要する時間と労力より、サービスで行なっている戸車の調整・修繕の方が時間と労力がかかることもしばしばあります。
と言うわけで、この現場でも、戸車の調整・修繕で時間がかかってしまいましたので、鍵交換の写真は撮らず作業に専念したので、写真がありません。
少し話にまとまりがなくなってきましたが、今回の記事はこの辺りで終わりにしようと思います。
今回は、先日行なった引き違い戸の鍵交換の際に行なった戸車の調整・修繕のご紹介でした。